肩の脱臼「戻したらもう大丈夫」じゃない!
そもそも脱臼とは?
”脱臼”というケガについて
多くの方が聞いたことはあるのではないかと思いますが、
まずは脱臼という障害の意味について解説をしていきます。
脱臼とは骨と骨とを連結する関節が、
それぞれが噛み合っている正常な状態から逸脱して
”外れてしまっている”・”抜けてしまっている”事を言います。
身体のどの関節でも理論上起こりえる障害ですが、
関節の形状によって脱臼の起こりやすさは千差万別です。
関節をつくるそれぞれの骨の形状やサイズの違いによって
また関節の周りを支える靭帯や腱といった組織の強さによって
関節の不安定性はそれぞれ異なるからです。
肩の関節はそれぞれの骨のサイズの違いが大きく、
また関節の周りを支える組織も決して強靭とは言えず、
人によっては意識的に脱臼させることができるくらい、
全身の中でも特に脱臼を起こしやすい関節の1つです。
肩関節脱臼の症状と対処法について
何度も繰り返し肩関節の脱臼をしてしまっている方では例外的なケースもありますが、
脱臼をしてしまうとまずはめちゃくちゃ痛いです。
肩を動かす関節が外れていますからほとんど動かすこともできません。
ご自身でも触れたり・見てみると肩が明らかに変形しているのもわかるので、
脱臼していると判断するのはそれほど難しいものではありません。
肩関節脱臼の対処法として何よりもまず
脱臼を速やかに戻してあげる(医学的に正しくは徒手整復といいます)ことが先決です。
徒手整復の方法は超専門的なので差し控えますが、
徒手整復の際には患者さんに極力負担がかからないよう・余計な力が入らないよう、
素早くかつできるだけ痛みを伴わないように行うことが大切です。
徒手整復によって脱臼が戻ってしまうと痛みは一気に収まります。
めでたし。めでたし。
となればいいのですが、
残念ながらそれだけで終わりというわけにはいきません。
脱臼を戻したそのあと…
肩関節という脱臼しやすい関節が簡単に脱臼してしまわないように、
肩の関節には脱臼を防ぐために様々な組織が存在しています。
回旋筋腱板(ローテーターカフ)と呼ばれる肩のインナーマッスルや
関節を覆い支える靭帯・関節の幅を広げるための軟骨(関節唇)
などといった組織が肩の関節を保護するため存在していますが、
脱臼してしまった瞬間に多くの場合で周りの組織は壊れてしまいます。
肩の脱臼が戻ってしまうと急激に楽になるので、
一部の医療機関では「すぐに動かしていい」と言われることもあります。
しかし、肩を保護する組織が壊れているのにもかかわらず
特に気にせずすぐに腕を動かしてしまうと、
壊れてしまった組織はきちんと修復されません。
壊れた組織が修復するまでの間の期間は
安静をとる・固定をする必要があります。
このような徒手整復後の対応をおろそかにしてしまうと、
肩の脱臼がいわゆる”クセ”になってしまうのです。
中高年以降で初めて脱臼をしてしまった方でしたら、
肩関節の動きが固まらないように早期から動かして行く場合もあるのですが、
10代・20代といった若い年代で初めて脱臼をしてしまった場合には
この受傷初期における固定対応が特に重要となります。
若年者で固定対応が不十分だった場合の肩関節脱臼が
実に50%以上でまた脱臼を繰り返してしまうという
調査結果も報告されています。
固定対応は三角巾をただ吊って腕がお腹の所に密着している状態では、
肩関節脱臼の対応として十分とは言えません。
ちょうど前ならえのポーズのように
手がまっすぐの状態を保つようにしたいのです。
少し不便な恰好ではありますが装具やテーピング・包帯を用いて、
傷ついた組織の修復が期待される期間は徹底する必要があります。
肩関節脱臼のまとめ
肩関節脱臼はスポーツでも珍しいケガではありません。
戻したらあとはもう大丈夫という医療機関が少なくなかったのも事実です。
しかし、再脱臼を含めその後の問題になるケースが多いことも
昨今の研究から明らかになっています。
初期には正しいポジションで適切な期間を固定して、
脱臼による症状を軽減させるとともに、
その後の再脱臼のリスクを極力減らすような対応が
何よりも重要と考えています。
この記事内では書ききれませんでしたが、
肩は亜脱臼や緩すぎるといった障害も問題につながる事があります。
肩の脱臼や肩が緩い・ズレた感じがするといった症状でお悩みでしたら、
些細なことでもお気軽にご相談ください。
最後までご覧いただいてありがとうございました。